「税リーグ」だけでは見えないJリーグの問題|DAZNと地域密着の30年を考える

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「税リーグ」という言葉があります。

Jリーグのクラブが使用するスタジアムの整備や維持に、多額の公費が投入されることを批判する言葉です。

たしかに、税金が使われる以上、「なぜ公費を投入するのか?」「その施設は地域にどれだけの利益をもたらすのか?」という議論は必要でしょう。

しかし、Jリーグをめぐる問題を「税金」という一点だけで考えてしまうと、もっと大きな問題を見落としてしまうのではないでしょうか。

それは、

Jリーグが生み出した価値を、誰が支え、誰が利用し、そして誰がコントロールしているのか?

という問題です。

この問題を考えるうえで、避けて通れないのが2016年のDAZNとの大型契約です。


2016年、Jリーグに何が起きたのか

2016年7月、JリーグはPerform Groupが提供する「DAZN」と、2017年から10年間、約2,100億円という大型の放映権契約を結びました。

これにより、J1・J2・J3の全試合がDAZNでライブ配信されることになりました。

Jリーグにとって、これは単なる放映権契約ではありませんでした。

それまでテレビを中心としていたスポーツ中継が、インターネットを中心とするデジタル配信へ大きく転換するきっかけとなったからです。

しかも、約2,100億円という契約規模は、それまでのJリーグにとって極めて大きなものでした。

Jリーグは、巨額の資金とともに、デジタル化という新しい未来を手に入れようとしたのです。

ここで、一つの疑問が生まれます。

なぜJリーグは、当時まだ日本で実績の乏しかった海外企業を選んだのでしょうか?


目の前に現れた「2,100億円」という大きなチャンス

もちろん、JリーグがDAZNを選んだ理由を「お金だけ」と考えるのは単純すぎます。

DAZNが持っていたのは、単なる資金力だけではありませんでした。

テレビだけではなく、パソコン、スマートフォン、タブレット、ゲーム機など、さまざまなデバイスでスポーツを視聴できるデジタル配信の仕組みがありました。

つまり、

『Jリーグが必要としていたデジタル化』と、『DAZNが目指していたスポーツコンテンツのデジタル化』が、うまく重なったのです。

それでも、約2,100億円という数字のインパクトは大きいものでした。

少し俗っぽく表現するなら、

Jリーグの目の前に、2,100億円という大きな「提灯」がぶら下げられた。

そんな見方もできるでしょう。

もちろん、これは「Jリーグが金に釣られた」という意味ではありません。

成長するための資金とデジタル化という新しい可能性が、同時に提示されたのです。

それをJリーグが「大きなチャンス」と判断した、と考えるほうが自然でしょう。

問題は、その先です。

その大きな資金と世界への接続によって、Jリーグは何を手に入れたのでしょうか?

そして、何を外部に依存するようになったのでしょうか?


DAZNは、単なる「動画配信会社」ではありませんでした

ここで、DAZNという企業を単なる動画配信サービスとして考えてはいけません。

DAZNを生み出したPerform Groupは、スポーツ映像だけを扱う会社ではありませんでした。

スポーツメディア、スポーツデータ、コンテンツ、デジタル配信などを手がける、グローバルなスポーツビジネス企業でした。

そしてPerform Groupの背後には、Len Blavatnik氏が率いるAccess Industriesという巨大な投資会社が存在していました。

つまり、Jリーグが2016年に向き合ったのは、単なる「海外のネット配信会社」ではありません。

そこには、

  • スポーツ
  • メディア
  • データ
  • デジタル配信
  • グローバル市場
  • 投資資本

が結びついた世界がありました。

スポーツは、もはやスタジアムで行われる試合だけではありません。

その試合を映像化し、世界中へ配信し、視聴者を集め、広告やサブスクリプションにつなげる。

そこまで含めて「スポーツコンテンツ」という巨大な産業になっているのです。

Jリーグのスタジアム産業とコンテンツ産業を対比し、地域経済への効果、放映・配信、広告、データ活用、海外展開など、スポーツビジネスの広がりを表現したイラスト。
Jリーグは、観客を集めて地域経済を動かす「スタジアム産業」であると同時に、試合映像を配信し、広告やデータ、海外展開につなげる「コンテンツ産業」でもあります。地域で生まれた価値を、どのように世界へ広げ、地域へ還元していくかが重要です。

外国資本に「奪われた」という話ではありません

ここで誤解してはいけないことがあります。

DAZNとの契約によって、Jリーグそのものが外国資本に買収されたわけではありません。

2016年の契約では、動画のライツや制作著作はJリーグ側に残されていました。

つまり、「DAZNがJリーグを所有した」という話ではありません。

むしろ当時のJリーグ自身は、この契約を非常に前向きに捉えていました。

海外から投資する価値のある日本のスポーツコンテンツだと認められたことを、Jリーグの成長にとって重要な出来事として評価していたのです。

ですから、「外国資本=悪」と考える必要はありません。

外国資本を利用することによって、日本のスポーツ産業が大きく成長する可能性もあります。

問題は、もっと別のところにあります。


「利用する」と「依存する」は違います

大きな資本を利用する。

海外の技術を利用する。

世界的なプラットフォームを利用する。

これは悪いことではありません。

むしろ、これからの日本のスポーツ産業には必要なことかもしれません。

しかし、利用することと、依存することは違います。

ここは非常に重要です。

自分たちがコンテンツを作る。

しかし、そのコンテンツをファンに届けるためには、外部のプラットフォームが必要になる。

さらに、

  • 視聴者との接点
  • 配信環境
  • サブスクリプション
  • 視聴データ
  • 顧客情報
  • 広告
  • マーケティング

といった領域まで外部企業への依存度が高まっていけば、単に「放映権を売った」という話ではなくなります。

スポーツビジネスの重要な部分を、外部の企業に委ねることになるからです。

だから、問うべきなのは、

「誰がJリーグを所有しているのか?」

だけではありません。

むしろ、

「Jリーグが生み出した価値を、誰がどこまでコントロールできるのか?」

ということです。


ここで、Jリーグ創設時の「地域密着」に戻ってみます

この問題を考えるとき、非常に重要なのがJリーグ創設時の理念です。

Jリーグは1993年、10クラブでスタートしました。

その中心にあったのが、「地域に根差したスポーツクラブ」という考え方でした。

これは単に、「各地にサッカーチームを作ろう」という話ではありません。

Jリーグは、ホームタウンの市民、行政、企業が一体となってクラブを支え、その町に不可欠な存在としてクラブを育てていくことを目指していました。

現在のJリーグ公式サイトでも、「地域に根差したスポーツクラブ」を核とする理念は明確に掲げられています。

1993年に10クラブだったJリーグは、現在ではJ1・J2・J3合わせて60クラブ、42都道府県にまで広がっています。

これは、Jリーグが30年以上かけて築いてきた大きな成果です。

Jリーグ創設時の「地域に根差したスポーツクラブ」という理念を表現した水彩画風イラスト。サポーター、子どもたち、地元企業、行政がクラブを支え、スポーツを通じて地域の誇りと活気を育む様子を描いています。
Jリーグが1993年の創設時から掲げてきた「地域に根差したスポーツクラブ」という理念。地域の人々や子どもたち、地元企業、行政が一体となってクラブを支え、スポーツを通じてまちを元気にすることを目指しています。

地域で生まれた価値は、どこへ向かうのか?

Jリーグが成長するにつれて、地域で生まれたサッカーが、全国へ、そして世界へ届けられるようになりました。

これは素晴らしいことです。

地方クラブの試合を、日本全国の人が見ることができます。

海外の人がJリーグに興味を持つ可能性もあります。

しかし、ここで一つの問いが生まれます。

地域で生まれた価値が世界へ広がったとき、その価値は最終的にどこへ向かうのか?

地域で生まれたクラブの価値が、

放映権となり、

広告となり、

サブスクリプションとなり、

世界で売買されるコンテンツになっていく。

そのとき、その利益や価値は地域へ還元されていますか?

もちろん、Jリーグにはクラブへの配分や地域活動など、さまざまな還元の仕組みがあります。

だから、「利益がすべて地域の外へ流れている」という話ではありません。

しかし、Jリーグがこれからさらに巨大なスポーツビジネスになっていくなら、

「地域から生まれた価値を、どうやって地域へ返していくのか」

という視点は、ますます重要になるのではないでしょうか。


「税リーグ」だけでは見えないもの

ここで、最初の「税リーグ」に戻ります。

スタジアムに税金が使われている。

だから問題だ。

もちろん、これは議論する価値があります。

しかし、それだけでは「支出」の問題しか見えてきません。

本当に考えたいのは、

そのスタジアムやクラブによって、どのような価値が地域に生まれているのか。

そして、

その価値が大きなスポーツコンテンツになったとき、その利益を地域へどう還元していくのか。

ということです。

Jリーグが目指した「地域に根差したスポーツクラブ」という理念を考えるなら、こちらの視点も欠かせないのではないでしょうか。


地域から世界へ。そして、世界から地域へ

私は、Jリーグが世界を目指すこと自体に問題があるとは思いません。

海外の資本も、技術も、プラットフォームも、利用できるものは利用すればいい。

日本のスポーツコンテンツが世界で評価されることも、素晴らしいことです。

大切なのは、その先ではないでしょうか。

地域で生まれた価値を世界へ届ける。

そして、世界から得た価値を、もう一度地域へ返す。

この循環ができるなら、グローバル化と地域密着は両立できます。

しかし、地域で生まれた価値が地域から遠く離れ、地域自身がその価値をコントロールできなくなってしまえば、Jリーグ創設時の理念との間に、少しずつ距離が生まれてしまうかもしれません。

だからこそ、これからのJリーグを考えるとき、

「スタジアムに税金を使うのか?」

という問いだけではなく、

「地域に根差して生まれたJリーグの価値を、誰が育て、誰が利用し、そして地域にどう還元していくのか?」

という問いも、考えてみる必要があるのではないでしょうか。

「税リーグ」という言葉だけでは見えてこない、Jリーグのもう一つの問題。

それは、

「地域に根差す」という原点を、世界的なスポーツビジネスへ成長したJリーグが、これからどう守っていくのか。

という問題なのです。

Jリーグを通じて地域と世界が価値を循環させる仕組みを描いたインフォグラフィック。地域のスタジアムやサポーター、子どもたち、地元企業が生み出した価値を、映像配信や海外展開によって世界へ届け、その成果を育成・普及、スタジアム整備、地域活動、クラブの発展を通じて地域へ還元する流れを表現しています。
地域で生まれた価値を世界へ届け、世界から得た価値を、もう一度地域へ返す。 Jリーグが地域密着の理念を守りながら成長していくためには、スポーツコンテンツの海外展開だけでなく、その成果を地域の子どもたちやスタジアム、地域活動、クラブの発展につなげる循環が重要です。

参考資料・出典

本記事の執筆にあたり、Jリーグの公式発表・公式資料および関連企業の公開情報を参考にしました。

※上記は、本記事の事実関係を確認するための参考資料です。記事中の問題提起や考察は、これらの資料を踏まえた筆者の見解であり、すべてが出典資料に直接記載されていることを意味するものではありません。

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