現代社会において、半導体は身の周りのあらゆる製品に使われていると言っても過言ではないぐらい、重要なものとなっています。「産業の米」とも言われるほどです。
その重要性については、昨今の半導体不足の慢性化により世界中で自動車をはじめとする工業製品の生産に支障が出るなど、大きな社会問題となったことからも再認識された方は多いかと思います。
そんな中、TSMCの工場が熊本で稼働する時期(2024年末)が迫ってきました。
ところで、熊本に進出するTSMCの工場(JASM)は、日本企業(ソニー、デンソー)も出資していることはご存知でしょうか?
先ずは、今後の日本経済への影響も大きいと思われる、その会社(JASM)の話からです。
JASMとは?
熊本県企業誘致連絡協議会主催による発表では、Japan Advanced Semiconductor Manufacturing (JASM)の概要について、以下のように報告されています。
- 工場建設場所 : 熊本県菊池郡菊陽町 第2原水工業団地(約21.3ヘクタール)
- 建設開始 : 2022年第2四半期(4-6月)
- 生産(創業)開始 : 2024年年末(予定)
- 生産プロセス : 22/28nmプロセス、12/16nm Fin FETプロセス技術
- 月間生産能力 : 5万5000枚(300mmウェハ)
- 設備投資額 : 86億ドル(約9800億円)
- 従業員数 : 1700人(320人を台湾TSMCの駐在員とし、ソニーグループから200人を派遣。そのほかは新規採用かアウトソーシング)
なぜ、熊本なの?
半導体生産には大量の水が必要
TSMCがある台湾では、2021年の大干ばつにより深刻な水不足が起こり、台湾北部ではダムの貯蓄量が5%台まで減少する地域もありました。
熊本は生活用水の8割が地下水であり、特に熊本市の水道水は100%が地下水でまかなわれているぐらい水が豊富です。
そんな中、台湾と比較的距離が近く、水資源が豊富な熊本が注目されたのです。
九州は「シリコンアイランド」
TSMCの最大顧客はアップルです。
ソニーは、アップルのiPhoneに搭載するカメラ向け画像センサーを供給していますが、ソニーの熊本工場は主要な生産拠点です。
しかも、画像センサー向け演算用ロジックの供給元としてTSMCは重要なパートナーなのです。
地政学的リスク
TSMCは台湾に本社を置く企業です。
言うまでもなく、台湾と中国との関係は緊張が高まっており地政学的なリスクがあります。
今のまま有事となった場合どうなるでしょうか?
つまり、海外に工場を建設することで、地政学的なリスクを分散させる目論見もあるのです。
TSMCは「台湾の半導体製造会社」
TSMCは、「Taiwan Semiconductor Manufacturing Company」の頭文字をとった社名です。
他社で設計された半導体を製造する台湾の半導体ファウンドリーで、「台湾積体電路製造」とも呼ばれます。
台湾で創業され、下図のようにTSMCを含む台湾産の半導体は世界シェアの21.6%を占めます。
TSMCの時価総額はおよそ63兆円で世界で9番目です。
日本企業のなかで時価総額トップのトヨタはおよそ23兆円であるため、トヨタの2倍以上の時価総額と言えばその凄さがおわかりでしょう。
半導体企業の事業形態
主流は「水平分業型」
半導体企業の事業形態は大きく以下の3つに分類されます。
IDMは垂直統合型のビジネスモデルですが、前者2つは水平分業型です。
- ファブレス
- ファウンドリー
- IDM(Integrated Device Manufacturer)
ファブレス
ファブレスとは、文字どおり「ファブ(工場)+レス(もたない)」という意味です。
ファブレス企業とは、自社で製造はせずに半導体の開発・設計に特化した企業のことを言います。
ファブレス企業の代表には、Qualcomm(米)やNVIDIA(米)などがあります。
ファウンドリー
ファウンドリーとは、製造に特化した半導体メーカーのことであり、ファブレス企業から受注して利益を上げています。
ファウンドリーの代表格がTSMCです。見てのとおり売上高は群を抜いています。
IDM(Integrated Device Manufacturer)
自社で設計・製造・組み立て・検査・販売まで全て一貫して行う半導体メーカーのことを言います。
水平分業型が主流となっている半導体業界ですが、IDMの代表として、Samsung(韓)とIntel(米)があります。
1980年代後半に世界を席巻した日本の半導体企業はそのほとんどがIDM型だったわけですが、今や世界ランキングに名を残すのは、キオクシア(旧東芝)、ルネサス、ソニーの3社ぐらいとなっています。
日本の半導体産業
ところで、日の丸半導体の未来はどうなのでしょうか?
ご覧のとおり悲惨な状況です💦
つまり、このまま放置しておくと日本の半導体産業は壊滅すると経産省は言っているわけです。
半導体・デジタル産業戦略
そんな中、経産省にて「半導体・デジタル産業戦略検討会議」というものが、2021年3月より始まりました。
以下は、公式サイトにあるプロジェクトの趣旨からの引用です。
今後、日本が世界に先駆けてSociety 5.0に移り変わっていくためには、「産業のコメ」であり、あらゆる社会・経済活動に深く関係する半導体・デジタル産業について、時代の変化を正確に捉え、競争力を高めることが必要である。
出典:経済産業省 > 半導体・デジタル産業戦略検討会議 > 趣旨
この流れの中で、ファウンドリーのリーディングカンパニーであるTSMCを、国策として国内に誘致することになったのでしょう。もちろん、それだけではないと思いますが。。
まとめ
「産業の米」とも言われるほどの半導体ですが、他の産業と違い事業形態がちょっと複雑であることは理解頂けたでしょうか?
水平分業型が主流といえども、その事業形態の先駆となったパソコンとはだいぶ違います。
その理由として、半導体のファウンドリーという生産工程の価値が非常に高いことがあげられます。
半導体の製造工程は、大きく分けて設計・前工程・後工程の3つの工程で形成されますが、それぞれの工程は更に膨大な工程があります。つまり、それだけいろんな企業と関わっている産業ということでもあり、高い技術力も必要になります。
次回は、その製造工程についてです。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます!