「60歳からの仕事」を想定したシニア起業は生きる希望となります。
とは言え、人生終盤、いまさらリスクは背負いたくないものですよね。
できれば極力コストをかけずに起業したい。登記費用も例外ではありません。
そのために知っておきたいのが「オンライン登記」です。
本記事は、もっとも費用をかけずに法人登記をする方法「合同会社のオンライン登記」を例にくわしく解説します。
登記前の事前準備
登記するためには、事前に決めておかなければいけない基本事項が多々あります。
順を追って見ていきましょう。
基本構成を決める
合同会社の場合は、出資した人が経営の責任を負います。その出資者を「社員」と呼び、合同会社の全責任を持つことになります。一般的な「会社員」という意味ではありません。
合同会社を設立するためには、まずは「社員」を決めなければなりません。
どのようにして、社員を決めるかというと、「誰と一緒になって合同会社を作るのか?」を決めればいいだけです。
合同会社の場合、ひとりでも設立可能です。最初はひとりではじめるのであれば、それで社員は決定です。何も問題ありません。
複数名で設立する場合は注意が必要です。なぜなら、合同会社は株式会社と違い、原則として出資する人は経営に関わることになり、すべての社員は会社の責任を持ち、ビジネスについての決定権を持つことになります。株式会社の場合は、必ずしも出資者=経営者とはなりません。
したがって、将来的に広く資金調達も視野に入れているのであれば、株式会社という選択のほうが有利と言えるでしょう。
だからこそ「スモールビジネス」には合同会社がピッタリ!
代表社員と業務執行社員を決める
合同会社の社員は、原則として全員が代表権と業務執行権を持つことになります。仮にふたりで設立した場合は、それぞれが代表権を持って業務を行うことになりますが、そのままでは、決裁権がどちらにあるかなど、得意先に混乱を生じさせることになりかねません。
そのため、合同会社では、代表権をひとりの社員に集約させた「代表社員」を決めることができます。
出資する人は原則的に経営に関わることになると前述しましたが、経営から外すことは可能です。
その場合は、「業務執行社員」を決めることで、業務執行社員ではない社員を経営から外せます。
会社名を決める
ちなみに会社の名前は「商号」と呼ばれます。
商号を決める際にはルールがあるので注意しましょう。
商号には必ず「合同会社」を入れる
会社名の前に付けても、後ろに付けてもかまいませんが、「合同会社」という文字を必ず入れる必要があります。
使用できる文字には制限がある
使える文字は、漢字、ひらがな、カタカナ、ローマ字(小文字・大文字)、アラビア数字、一定の符号のみです。
【使用できる符号】
「&」(アンバサンド)
「’」(アポストロフィー)
「,」(コンマ)
「-」(ハイフン)
「.」(ピリオド)
「・」(中点)
社内の一部門を表す文字は使用不可
商号の中に、○○支店、○○支部、○○支社、○○事業部など、部署を表す文字は使用できません。
「銀行」「信託」の文字は使用不可
銀行業や信託業を行う会社以外は、「銀行」「信託」の文字は使用できません。
公序良俗に反するものは使用不可
犯罪や違法行為を助長させるような文字は使用できません。
有名企業の商号は使用不可
「ホンダ」のように、有名な会社の商号を使うことも不可です。場合によっては、訴えられることは言うまでもありません。
商号の調査を行う
新会社法が施行される前は、類似商号の規制がありました。そのため、商号を決定する前に、事前調査を行う必要がありました。
新会社施行後の平成18年5月以降は、規制が撤廃され、同じ住所に同じ商号がなければ問題ないという内容に緩和されたのです。
しかし、安易に同じ商号を使用すると、不正競争防止法などの法律に基づき、「商号の使用差し止め請求」を受けたり、「損害賠償請求」を受ける可能性はあります。
したがって、未然にトラブルを防ぐためにも、できる限り「商号調査」は行っておくべきでしょう。
類似商号は、管轄の法務局に出向けば、無料で調査することが可能ですが、今は、オンラインでも調査できるので、こちらからサクッと済ませましょう。検索のみであれば費用はかかりません。
検索方法は、上記サイトの「操作方法」〉「登録利用」 〉「商号名称指定」にあります。
このサービスを一時的に使用する場合は、一時利用(クレジットカード登録)により、即時に利用することができます。
継続利用できる「個人利用」で申し込んでおけば「不動産登記情報」も閲覧できますよ。但し、その場合は1週間程度の申込期間が必要となります。
事業目的を決める
「事業目的」とは、合同会社で行う事業内容とその目的のことです。したがって、事業は定款で定めた事業目的の範囲内でのみ、その活動ができることになります。
定款に記載した事業目的以外の事業を行うには、事業目的の変更手続きを都度行わないといけません。
法務局での目的変更登記の登録免許税は、30,000円です。事業目的の変更内容や変更した数に関係なく、一度の申請にかかる料金は一律30,000円となります。
したがって、登記する段階で考えられる事業目的は全て盛り込むようにしましょう。
本店所在地を決める
合同会社の住所となる「本店所在地」を決めます。
本店所在地をどこにするかということに対して、法律的な制限は特にありません。
したがって、自宅マンションでも、賃貸事務所でも登記は可能です。但し、賃貸の場合は、賃貸借契約書上、問題ないかは物件に依存しますので、事前に大家さんや管理会社に確認しておきましょう。
ちなみに、本店所在地を移転する場合には、原則として移転の登記手続きが必要になります。同じ法務局の管轄内であれば、30,000円、管轄外であれば、60,000円の登録免許税がかかります。
自分の実家を本店所在地にするなど、あらかじめ、移転する可能性が低い場所を登記しておくと、移転手続きを行う必要はほぼなくなりますよね。
事業年度を決める
法人では、会計の区切りをつけるために、1年に1回以上の決算作業を行うための「事業年度」を決める必要があります。
年1回ではなく、2回にも3回にもすることは可能ですが、煩雑な決算作業は、特別な理由がない限りは年1回にしましょう。毎年4月1日から翌年3月31日でもいいし、8月1日から翌年7月31日でも構いません。自由に設定可能です。
2月決算にする場合は、うるう年がありますので注意しましょう。定款を作成するときには、「毎年3月1日から翌年2月末日まで」と記載しなければいけません。
資本金の額を決める
合同会社の場合、原則として、出資した人が経営者になります。株式会社では、出資した人(株主)は、自分が出資した額に応じて、権利や配当が変わります。
一方、合同会社では、原則として出資比率に権利が左右されることはありません。たとえ、出資比率が9対1であったとしても、定款にてルールを定めれば利益を折半することが可能です。
資本金の額ですが、個人のネームバリューや信用で仕事をするような合同会社の場合、資本金の額自体は、それほど問題にはならないでしょう。但し、ある程度の資本がないとビジネスは上手く回りませんから、例えば、1か月の経費を計算し、その半年程度の運転資金を用意します。こうすることで、すぐに資金が底を突くことはなくなります。
必要書類を用意する
代表者の印鑑登録証明書を用意する
合同会社の設立に必ず必要なのは、代表者の「印鑑登録証明書」です。
印鑑登録証明書は、本人の実印であることを証明できるもので、各市町村役場で発行してもらえます。まだ未登録の人は、できるだけ早めに印鑑登録を行い、印鑑登録証明書を準備しましょう。
法人が代表者になる場合は登記事項証明書も用意する
株式会社の場合、法人が取締役になることはできませんが、合同会社の場合は、個人に限らず、法人を代表社員にすることも可能です。この場合は、その法人の印鑑登録証明書以外に、登記事項証明書(履歴事項全部証明書)も必要になります。
「スモールビジネス」で、法人を代表社員にすることはないと思いますが、念のため。^^;
会社の印鑑を作る
商号が問題なく使えることがわかったら、合同会社の印鑑を作りましょう。
一般的には、3点セットと呼ばれる「会社代表者印」「銀行印」「角印」があります。
会社代表者印
合同会社を設立するときに、必ず必要になる印鑑が、「会社代表者印」です。会社の実印と呼ばれるもので、法務局へ提出する登記申請書類と併せて、この「会社代表者印」の届出を行います。
「会社代表者印」は、会社設立後も使用する大事な印鑑となります。例えば、契約書を交わしたりするときに、契約書に押印する印鑑は、この「会社代表者印」です。
銀行印
銀行に合同会社の法人口座を開設するときや、銀行取引用として使用するときの印鑑です。
必ずしも、「会社代表者印」と分けて使用しなければならないものではないですが、紛失や不正使用などを未然に防ぐためにも、「銀行印」は作っておくべきでしょう。
角印
「角印」とは、日常業務での請求書発行や、送付状などで使用する印鑑のことです。法律上は必要なものではないですが、日常業務として用意していたほうが便利といえます。
他にも「ゴム印」などありますが、デジタル化という方向性からしても、今後は必ずしも必要ないでしょうね。参考までに、拙者が購入した印鑑の販売元を紹介しておくバイ ↓
管轄の法務局を把握する
一定の地域ごとに、不動産登記や商業登記の事務を取り扱っているのが法務局です。
合同会社の設立では、設立のために必要な書類を準備して、法務局に登記申請をすることで完了します。このとき、どこへ提出してもいいわけではなく、本店所在地の場所を管轄する法務局に提出することになります。
定款を作る
基本事項が決まったら、実際に登記申請書類を作成します。
まず最初に「定款」です。ちなみに株式会社の定款は、申請前に公証役場で認証を受けないと申請できないですが、合同会社は不要です。
法務局のウェブサイトに、設立時の申請書や添付書類の詳しく掲載されていますので、是非活用して作成しましょう。雛形も充実しています。
◆合同会社の設立の登記申請(オンライン申請)に必要な添付書面情報
絶対的記載事項
定款に必ず記載しなければならない事項を「絶対的記載事項」といい、以下が該当します。
「目的」
「商号」
「本店所在地」
「社員の氏名または名称および住所」
「社員の全部が有限責任とする」
「社員の出資の目的」
相対的記載事項
必ず記載しなければならない、というものではありませんが、記載しないとその効力が生じない事項を「相対的記載事項」といいます。該当する主なものは以下のとおりです。
「業務執行社員の定め」
「代表社員の定め」
「利益の配当」
「損益分配の割合」
「退社の条件」
「解散の事由」
任意的記載事項
名称のとおり、定款に記載しても、しなくてもいい項目のことです。
「決算期」
「代表社員や業務執行社員の報酬」など
書式サンプルを活用する
法務局のウェブサイトにある、書式サンプルを参考にすれば問題なく作れるでしょう。
定款の印刷と製本
登記を紙ベースで行う場合は、印刷を行い押印して製本します。
オンラインで登記することを前提にしていれば、印刷および製本を行う必要ないバイ
資本金の証明を作る
定款を作成したら、次は資本金を振り込んで「資本金の証明」を行います。
資本金は、個人の銀行口座に振り込み、その通帳のコピーを取ることで資本金の証明とします。以下はその手順です。
代表社員の個人口座に資本金を振り込む
出資する社員が複数名いる場合には、全員が振り込む必要があります。
口座は既存の口座を使用しても構いません。但し、その他のお金とは混在しないようにしましょう。
振込時の注意点は、振込明細に個人名が明記されるように「振り込み」で処理することです。
振込額の合計が、資本金の額と合うようにします。
払込証明書を作る
資本金の振り込みが済んだら、それをもとに資本金の証明となる証明書を作成します。この証明書は、登記申請時に必ず必要になるものです。
通帳がある場合
通帳のうち、コピーするのは次の3か所です。
- 表紙
- 表紙裏
- 実際に誰がいくら振り込んだのかがわかる振込明細のページ
表紙裏は支店名・支店番号、銀行印などが記載されているページを指します。
コピー用紙のサイズに特に決まりはありませんが、A4で作成するのが一般的です。
インターネットバンキングを利用している場合
インターネットバンキングを利用し、通帳がない場合は、必要な情報が確認できる箇所をプリントアウトします。必要な情報は基本的には通帳コピーの場合と同様です。
- 銀行名、支店名、預金種別、口座番号
- 口座名義人の氏名
- 振り込み内容が記載されている箇所
払込証明書の表紙を作る
次に、表紙にあたる「払込証明書」を作成します。
法務局のウェブサイトにある、書式サンプルを参考にすれば問題なく作れるでしょう。
合同会社の添付書類を作る
資本金決定書を作る
「資本金決定書」は、合同会社の資本金を決定したことを証明するために作成します。
法務局のウェブサイトにある、書式サンプルを参考にすれば問題なく作れるでしょう。
この書式サンプルは、社員2名の場合において、どちらか1名を代表社員に選ぶ場合を示したものです。
代表社員の就任承諾書を作る
複数名で合同会社を作る場合に、代表社員になる社員が就任したことを証する書類が「代表社員の就任承諾書」です。
法務局のウェブサイトにある、書式サンプルを参考にすれば問題なく作れるでしょう。
法務局に登記申請する
本記事では、オンラインで申請することを前提にしています。
オンライン一択で、無駄なコストと無駄な所要時間を無くし、登記申請を行いましょう。
動画でわかるオンライン登記申請(事前準備編)
申請者情報登録、申請用総合ソフトのダウンロード、ICカード設定等のオンライン申請を行う上で必要な事前準備についての説明(約10分)です。必ず視聴しておきましょう。
商業・法人登記のオンライン申請について
法務省のウェブサイトです。オンライン申請に必要な手順がわかりやすく説明されていますので、この手順どおりに処理すれば問題なく申請できるはずです。
このサイトを参考にして問題なく申請できたバイた。補正発生時の説明も、非常に丁寧でわかりやすかったです (^^)
登記完了後の届出を行う
法務局の審査がパスすれば、合同会社の設立は完了です。
これで登記自体は終了ですが、やっておくべき手続きがありますので、時間を空けることなく、漏れなく済ませておきましょう。
登記事項証明書を取得する
法務局に行くと、「登記事項証明書交付申請書」というものが備え付けてあります。この申請書に必要事項を記入し、「履歴事項全部証明書(登記事項証明書)」を取得しておきましょう。
印鑑カードを取得する
法務局に備え付けてある「印鑑カード交付申請書」に必要事項を記入して提出すれば、その場で交付されます。会社代表者印の印鑑登録証明書を取得するときに、この印鑑カードを使用します。
各役所への「届出」を行う
税務署
- 「法人設立届」として、設立の日から2か月以内に提出します。
- 「青色申告の承認申請書」として、設立の日から3か月を経過した日と、当該事業年度終了の日とのいずれか早い日の前日までに提出します。
都道府県税事務所
- 「法人設立届」として、設立の日から1か月以内に提出します。
市区町村役場
- 「法人設立届」として、設立の日から1か月以内に提出します。
年金事務所
- 「健康保険・厚生年金新規適用届」として、登記事項証明書などを添付して提出します。
労働基準監督署
- 労働者を雇用するようになったら、「適用事業報告書」「保険関係成立届」を、速やかに提出します。
公共職業安定所(ハローワーク)
- 「雇用保険適用事業所設置届」「雇用保険被保険者資格取得届」として、労働者を雇用するようになったら提出します。
法人設立ワンストップサービス
これらの非常に面倒な「法人設立の関連手続」を、ワンストップで行えるサービスが、デジタル庁から提供されるようになっています。申請する法人形態に合わせて、届出項目を選択できるようになっており、また、チェック機能としても有効なので、フル活用しましょう。
まとめ
見てきたとおり、いろんな役所が絡んでいることもあって、手続きが面倒に感じるのは否めません。
手続きが面倒なのは法人化の最大のデメリットでもありますので併せて理解を深めておきましょう。
しかし、最後に紹介した「法人設立ワンストップサービス」のように、マイナンバーカードを使ったオンラインサービスを活用すれば、以前よりはコストや時間をかけずに手続きできるようになってきているのは間違いありません。これからも進化していくことでしょう。
登記関連のオンラインサービスの中には、会社設立後も継続して使用できる便利なものがあるので、最後に紹介しておきます。
一般財団法人 民事法務協会「登記情報提供サービス」
前述した類似商号調査以外にも使える機能があります。それは、最新の登記情報を閲覧・ダウンロードすることができるサービスです。不動産や法人の情報を調べるだけであれば、法務局に出向く手間や交通費を省けるので断然便利です。
登記・供託オンライン申請システム「登記ねっと 供託ねっと」
インターネットを介して、登記のオンライン申請ができたり、謄本の請求を行うことができます。メリットは「登記情報提供サービス」と同様、法務局に出向く手間や交通費を省けることです。
これらをフル活用することで、所要時間の効率化を図り、経費も極力抑えて「スモールビジネス」をスマートに初めて頂けると幸いです。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました!