【高橋是清とは?】「積極財政が日本を救う」は本当か?「高橋財政」について解説

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財務省は、常に「財政健全化」と言います。

財政健全化って、何なの?

ネットで調べると、「国や地方公共団体などの公的部門が、歳入と歳出の差である財政収支を改善し、借金(国債などの公債残高)を削減すること」とあります。

つまり、家庭と同じです。収入より支出が大きいと赤字になるから、収入を増やす、もしくは支出を減らしましょう(節約する)ということです。

財務省の公式サイトには、「日本の借金の状況」として、2023年度末には、1,068兆円に上る見込みとあります。

よくある報道が、「国民1人あたりの「借金」が〇〇〇百万円を超えました」というものです。

だから、財政を健全化しないと破綻する!と。

本当なのでしょうか?

まっとうな主張に聞こえる一方で、それとは真逆のことを主張している専門家が多いのも事実です。

若手の自民党議員を中心にした議連「責任ある積極財政を推進する議員連盟」が2022年2月に設立され、積極的に情報発信されていることはご存知でしょうか?

どのような趣意で発足したかについては、公式サイトに以下のように書かれています。

私たちは歴史に学び、現下の日本経済の状勢において財政赤字を恐れず、積極的な財政政策が必要であるとの認識を共有し、これまでの政策を、諸外国の事例等も参考にしつつ、丁寧かつ大胆に分析評価し、国家国民のために真に必要な政策への転換を図るべく、ここに「責任ある積極財政を推進する議員連盟」を設立する。

出典:責任ある積極財政を推進する議員連盟 > 設立趣意
誠ちゃん
誠ちゃん

拙者を含む経済音痴の日本人が、「嘘まみれの経済」に少しずつ気付き始めているように見えますね~

本記事は、積極財政はニッポンを救うことができるのか?「責任ある積極財政を推進する議員連盟」の中で行われている勉強会の内容を元に、「素人にもやさしい経済学」としてわかりやすく解説します。

今回は「高橋是清」という方が行った財政政策についてです。

江戸東京たてもの園「高橋是清邸」

世界最速で世界恐慌から脱出したニッポン

19世紀以降、財政は金本位制でした。

金本位制とは、お金(通貨)の価値を金(ゴールド)で担保する仕組みのことです。

  • 第一次世界大戦により、欧米諸国および日本は金本位制から離脱します。
  • 戦後、欧米諸国は金本位制に復帰します。
  • 1929年7月 日本も金本位制への復帰を目指して緊縮財政を始めます。
  • 1929年10月 ニューヨーク株式市場が暴落!
  • 1930年1月 金本位制へ復帰後、日本は昭和恐慌(大デフレ不況)になります。
  • 1931年 犬養内閣が成立し、蔵相に「高橋是清」が就任します。

高橋是清が行った政策:金本位制から離脱、金利の引き下げ、日銀の国債の直接引き受け、GNP比3%超の財政出動(公共投資)、増税の拒否

その結果(1932年~1936年)、日本は世界最速で世界恐慌から脱出しました。

  • GNP(国民総生産)成長率:年率6.1%
  • GNPデフレータの上昇率:年率1.5%
  • 完全雇用達成(1936年)

つまり、積極財政によって日本経済は復活したのです!

高橋是清の政策哲学

欧米諸国を含め緊縮財政が主流だった中、どのようにして積極財政という政策に至ったのか?

その背景には以下の政策哲学がありました。

ナショナリズム

最も思想的影響を受けたのは「前田正名」と言われています。その国家観念に共鳴したのです。

前田君と二日許り続けて話をしている間に、どうも自分の今までの国家観念が浅薄であったということに気がついた。国家というものは、自分と離れて別にあるものではない。国家に対して、自己というもののあるべき筈はない。自己と国家とはひとつのものである。観音様と信者とは、一体になってこそ真正の信仰である。国家もこれと同じことである。こういう風に私は考えるようになった。

「殖産産業の発達にしたところが、資本と労働とばかりではいかない。その動機、即ち根本たる精神が大切だ。所詮国家精神でやらなければならぬ。

協同の精神

消費者、生産者、配給者、金融業者の心が揃って、専心国家的に協同するようになれば、国内の産業はますます発展し、結果的に資本も動くようになり、国民の働く目的もちゃんと樹ってくるから、不景気風のごときは吹き飛ばされてしまう。

内需重視

産業政策上対外関係のみに重きをおいて、対内関係を忘却することは本末転倒であり、いたづらに眼を海外にのみ馳せ、内を整えることを怠らないようにしたい。

賃金重視

生産界に必要なる順位から言えば、もしろ労力が第一で、資本は第二位にあるべきはずのものである。ゆえに、労力に対する報酬は、資本に対する分配額よりも有利の地位においてしかるべきものだと確信している。すなわち「人の働きの値打ち」を上げることが経済政策の根本主義だと思っている。

物の値打ちだとか、資本の値打ちのみをあげて「人の働きの値打ち」をそのままに置いておくと、購買力は減退し不景気を誘発する結果にもなる。

誠ちゃん
誠ちゃん

まるでバブル崩壊後の経済政策のことを言っているよう、、💦

金融資本主義批判

株式取引所でやり取りするところの金は資本であるか、ただの金であるか、私は取引所で動くところの金は資本とは認められない。何ら生産をする方に使われる金ではない。そうしてみれば、同じ金でも生産に働く金と、生産に何ら働きをなさぬ金と世の中にこの二通り金の種類があると見なければならぬ。

実用主義

自由主義とか統制主義とか、いろいろ議論があるけれども、政治は主義ではなく、実際であって、一方の主義に偏することなく、専ら事の宣しきに応じなければならぬ。自由といっても極端な放任はできないと同時に、統制といっても極端に自由を束縛してはいけないのである。これは言うまでもないことで、すべて事の宜しきに応じて誤りなきを期することが政治である。

まとめると、幕末維新までは、ごく当たり前に持っていた日本人の倫理感で物事に当たれば、「国内の産業は発展し、結果的に資本も動くようになる」ということだと思います。

高橋財政の政策

国家間の経済競争

各国経済の競争において負けてはならぬことになり、歳出はただ一般の行政費だけで済ますことが出来なくなった。ここにおいて、事実上「入る」を計って「出づる」を制するということが行われない時代になってきたのである。

もしそれが、いかぬといってただ納税のみによって政府の仕事をすることになれば、国家間の経済競争に落伍者となるよりほか仕方がない。今日の時勢の変化からこれはよほど研究すべき価値がある。

誠ちゃん
誠ちゃん

いまの日本がこれ(落伍者)ですね💦

ケインズ主義の先駆

今までの考えだと、財政は常に収支の均衡を保たなければならぬという。けれどもこの国を見ても、初めはなかった借金が段々増えている。戦争とか天災とか思わぬ事件が、どこの国にでも次々に起こるからだ。しかし、借金が増えていく結果はどうなったかというと、一面産業は大いに進歩し、国の富も増えたので国債の増加も苦にならない。十分、その重みに堪える力ができてきたのだから、赤字公債というものもそう理屈どおりに気にかけることはない。場合によっては、借金をしても進んだほうがよい。また、やむを得ず借金をしなければならぬ場合もある。しかし、その結果、国民の働きが増せばここに富ができる。前の借金ぐらい何でもない。

ケインズ経済学(著書「雇用・利子および貨幣の一般理論」)が刊行されたのは1936年です。

つまり、二・二六事件(1936年2月26日)で没した高橋是清は、その前からマクロ経済学というものを理解・実践していたということになります。

乗数効果

乗数効果

高橋是清は、緊縮という問題を論ずるにあたっては、まず「国の経済」と「個人経済」との区別を明らかにせねばならない。と言います。

仮に、ある人が待合へ行き、芸者を招んだり、贅沢な料理を食べたりして二千円を使ったとする。もしも今この人が待合へ行くことを止めて二千円を節約したとすれば、この人個人にとっては二千円の貯蓄ができて銀行の預金も増えるであろうが、その金の効果は二千円を出でない。

しかるに、この人が待合で使ったとすれば、その金は転々して、農、工、商、漁業者等の手に移り、それがまた諸般産業の上に二十倍にも、三十倍にもなって働く。ゆえに、個人経済から言えば、二千円の節約をすることは、その人にとって、誠に結構であるが、国の経済から言えば、同一の金が二十倍にも三十倍にもなって働くのであるから、むしろその方が望ましい訳である。

デフレリスクと増税反対

緊縮財政論者(浜口雄幸、井上準之助など)は、デフレ不況は非効率な企業を淘汰できるので、かえって望ましいと信じていました。

これに対し、高橋是清は、「デフレを放置しておくことは、一国の生産力をして衰微せしめる最大の原因である」と批判しています。

また、増税に対しても強く反対します。

高橋財政に対する批判と反論

典型的な批判

「高橋財政」に対する典型的な批判は、以下の流れによるものでした。

  1. 「高橋財政」期の予算編成においては、金本位制のような財政規律を担保する制度的メカニズムが存在しませんでした。
  2. したがって、財政規律の維持は、「高橋是清」個人の能力と意思に委ねられていました。
  3. 軍部による歳出増大要求が強まると、高橋は軍部からの圧力の矢面に立たざるを得なくなったのです。
  4. その結果、高橋は暗殺(二・二六事件)されます。
  5. その後、財政規律は完全に失われ、戦時統制経済と戦後の急激なインフレを招いたのです。

「財政規律を守らないとインフレや戦争になる」というのが、「高橋財政」から得た教訓と言われています。

○ 財政法(昭和二十二年法律第三十四号)(抄)

  • 第四条 国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。
出典:財務省 > 参照条文

当時立法に深く関わった旧大蔵省平井平治氏は、「財政法逐条解説」の中で次のように言っています。

公債のないところに戦争はない。本条は憲法の戦争放棄の規定を裏書き保証せんとするものである

批判に対する反論

  • 高橋財政は金本位制から離脱はしたが、円を英ポンドにペッグしており、財政規律の制度的メカニズムは存在していた。にもかかわらず、高橋暗殺、戦争、戦後の高インフレは起きたのだから、これらは財政規律の制度的メカニズムがあれば防げたとは言えない。
  • 財政規律の制度的メカニズムがあっても戦争を抑止することはできない。なぜなら、満州事変は、金本位制に復帰した浜口内閣の下で起きた。また、金本位制は、第一次世界大戦を阻止できなかった。
  • 財政規律を維持しても、軍事費を増大させる方法はある。たとえば、健全財政論者であったナポレオンは、戦争遂行のための財源を得るため、他国の富を収奪すべく侵略を繰り返した。つまり、健全財政が侵略を招いた例と言える。
  • ケインズは、著書「雇用・利子および貨幣の一般理論」の中で、国内政策によって完全雇用を実現できるようになるならば、各国は市場獲得競争に乗り出さなくてもよくなるので、戦争の経済的要因は軽減され、より平和的になると論じている。
  • 国家は、必要ならいつでも財政規律の制度的メカニズムを放棄できる。例えば、第一次世界大戦に参戦した国々は金本位制を離脱した。コロナ禍が起きた2020~2021年にも、EUは「安定・成長協定」の財政規律条項を一時停止し、ドイツも憲法に定める財政規律条項を一時停止した。
  • 財政規律によってデフレ不況を放置すると、体制に対する国民の不満や社会不安が高まり、それが労働運動、右翼運動の過激化、軍部の台頭、ファシズムを招く。つまり、戦争を招いたのは高橋財政ではなく緊縮財政である。
  • 1930年代のドイツでは、緊縮財政によりデフレ不況が悪化しナチスが台頭した、と。

まとめ

緊縮財政と積極財政、いまのニッポンが行うべきはどちらと思いますか?

実は財務官僚および国内大手メディアにとって「積極財政」はタブーなのです。

なぜか?その理由が理解できれば本質が見えてきます。

『闇の根っこにあるもの』を知りたい方はこちらもどうぞ。

本記事は、「責任ある積極財政を推進する議員連盟」主催の「第一回勉強会『高橋是清の経済政策と現代への教示』 講師:経済評論家 中野剛志氏」を元にやさしく解説したものです。

詳細について知りたい方は、下記書籍をお勧めします。

誠ちゃん
誠ちゃん

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。次回をお楽しみに!

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